番組の後半で、FEMA が今回のカトリーナで機能しなかった原因、そしてその日本の災害対策への教訓について、京大防災研の林春男先生がゲストで分析をされていた。覚書もかねて、ポイントを整理してみる。
9-11以降「テロとの戦争」に傾倒していったブッシュ政権によって、大統領直轄組織から国土安全保障省の下に組み込まれて格下げされ、予算も人も減らされた FEMA。1999年のハリケーン「フロイド」の時は300万人を事前に避難させ、大きな被害を未然に防いだのだが、今ではそれが全くできなくなってしまったのは、今回のカトリーナで露見してしまった。
このことについて林先生は
「FEMAの弱体化の原因として、ひとつは組織変更で大統領との距離が遠くなり、ものを一つ動かすのも多くのステップを踏まなければならなくなったこと。閣僚から局長級にトップが格下げされたため、(ハリケーン来襲時に)緊急に多くの資源を動かそうとしても指揮命令系統も複雑化し、スケールも小さくなってしまった。と分析されている。
もうひとつはテロ対策の専門家が増えて災害対策の専門家が減ってしまったこと。」
FEMA はブッシュ政権の下でテロ対策と災害対策を同時に担当することになったわけだが、これについては
「テロも災害も、起こった後のやり方は非常に共通するものがあるが、テロの場合は後追い(reactive)の対応がメインである。しかし災害の場合は、近づくハリケーンなどに先手を打って(proactive)対応し、実際に災害が来たときには準備万端にしておくことが大事である。この違いは大きいし、その先手を打つ動きの部分が FEMA から失われたものだ」と指摘されている。
今回のカトリーナ災害の日本の災害対策への教訓としては
「このような大規模災害がアメリカだから起こる、と考えてはいけない。大都市で0メートル地域も多くあり、高潮・津波で同じ規模の災害が起こる可能性は十分にある。
また、予測される東海地震など、広域の大規模災害では複数の都道府県が同時に被災することも考えられるので、複数の自治体にわたる広域の(短時間での)調整機能が必要になる。
さらに、今回のFEMAに見られるケースとして、(さまざまな技術など)ハイテクの部分では大変に優れている。しかし、人を現地に送る、などのローテクの部分の力が大変に落ちてしまっている。ローテクの力を維持するのは地味な作業だが、わが国はその部分もバランスよく保っていかなければいけない」
と述べておられた。
前半の組織変更による弱体化の部分は、アメリカの民主党が一番攻撃している部分だ。しかし、911直後はアメリカは両党一致団結してブッシュの方針を支持し、ブッシュ支持率は高騰し、上下両院で共和党が多数となった。その結果、ルイジアナ州立大など多くの研究機関がハリケーンでの大規模被害を指摘しつづけたにもかかわらず、実質的な災害対策がおろそかになっていくのを止めることができなかった。
・・・この状況、どっかの国の今現在に似てないだろうか・・・
もちろんわが国は、このところ毎年大きな自然災害にたたられてしまっているし、その意識がおろそかになることはないと思う。が、実質はどうなのか、しっかり見守っていく必要があると思う。
後半の「ハイテクとローテク」の部分は本当に重要だと思う。
「カトリーナの爪痕 - 逃げない人々」でも引用した林先生の講演内容で
サイバーケンセツコンサルタント : GISを構築、そして行動
FEMAの公開している被災マップを見ながら、こうして情報を共有することも大事だが、これを持って現地に入っていく人がいない、ということを(林先生は)言っていた。の部分。どれだけいろんな情報や地図、衛星写真があっても、災害が襲ってくる前、来た後にどう動けばいいのか、どう対応したらいいのかに生かされなければ、本当に何の意味もない。特に、今回のカトリーナでも生死を分けた、実際に災害が起ころうとする時間帯にいろいろと先手先手を打って行動するところで、どう技術を生かせるか、がポイントになると思う。当然そこではネットやケータイが使えなくなったり、使ってられる状況じゃなくなったりする場面が発生する。このプロセスをうまくサポートするような仕組み作りをする人々に、当ブログもなんとか貢献できないかなと思う。
GISに関わらずITは所詮単なる「技術」でしかなく、その技術を使って何をするかを考えることが肝心
また、ローテクの中でも一番心配なのが、ここでも書いたが、心理面の部分。自分自身、本当にできているかと言うと疑わしい。じわじわ襲ってくる台風、突然襲ってくる地震。果たしてその瞬間、行動できるのだろうか。
9月9日の NHK おはよう日本で、おなじく京大防災研の開発した、災害時の心理をシミュレーションしたカードゲームが紹介されていた。
NHKニュース おはよう日本『まちかど情報室』 - 『シミュレーションで災害に備える』
コンピューター技術や心理学を応用したシミュレーションを使って災害を模擬体験し、防災に役立てようという動きが広がっています。大都市大震災軽減化特別プロジェクト 研究課題・テーマ一覧
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被災した時の心理状態を体験できるというカードゲーム
数人でテーブルを囲んで、「このケースではどう行動しますか」と設問をだされ、選択肢が書かれたカードを選んで一斉にテーブルに出させる。特に意見が分かれたりしたときなど、それについてグループで議論してみると言うゲームだ。
こういうシミュレーション、ぜひやって見たいと思う。
9月14日の地元紙Times-Picayuneの1面。被災から16日目。
来週月曜にニューオーリンズの街の一部も被災者が帰られるようになると言う。水没地域もだんだん減り、水道・電気も復旧に向けて動いている。
それにしてももう2週間・・・
カードを使ったシミュレーションや、災害図上訓練(DIG)といった様々な取り組みが行なわれています。
また、阪神大震災に関連した書籍も多く出ていて非常に参考になりますので是非一度。
上のNHKの朝ニュースで見たのカードゲームはまさにそれでしたね。なるほどと思いました。
災害図上訓練、ぐぐってみたらいろいろな取り組みが出てきますね。自分の地域も実は結構災害に弱いんじゃないかと思っていますので、具体的なシミュレーションをしてみたいです。
ものすっごい細かいことですが…
「京大災害研」じゃなくて「京大防災研」です。
そこに所属してるだけに、どうも見過ごすことが出来ませんでした。
これからも更新期待しております。
前回の記事ではちゃんと防災研と書いていたんですが(汗)